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人類は食料問題から解放されたと言われたのです。マルサスから、200年経って、もう食料は問題ではなく、人口問題は全く心配ない、と一部で考えられたわけです。その論拠は人口の増加率よりもはるかに高い食料生産の増加を達成したから、というわけです。
確かに、緑の革命、化学肥料の導入、あるいは品種の改良、灌漑、など様々な領域で劇的な変化が起こってきました。その結果、とにかく農業生産は大幅に伸びたのです。
過去、約40年間、人類はマルサスが200年前に心配したような大変な苦悩というものから解放された状況だったのですが、さて、最近になり、この状況が変化してきました。
90年代に入り、表面化してきたことは、食料生産の増加率がどんどん下がっているということです。現在では、過去の高い食料生産の増加率が低下し、人口の増加率をはるかに下回るような食料生産の増加率、最近は1%ぐらいになったとも言われます。現在、世界の人口増加率は、1.7%あるいは1.6%ですから、過去40年間続いた人口増加率を食料生産の増加率が上回るという状況から、逆転してきました。
そこで、今日、人口と食料という、人間の生存にとって、非常に古くから学問的な対象として考えられていた問題が、今、現実的な、あるいは政策上の問題として、再び現れてきたのです。
非常に難しい問題ですが、悲観的に考えるか、楽天的に考えるかというと、あまり楽天的でも困りますし、あまり悲観的でも困ると思います・
ただまず、考えなければならないのは、多少悲観的なほうが、いいのではないか。悲観的になると、ますます努力が必要で、その努力に対する関心が非常に高まってくるのではないか。その理由は、いろいろあります。たとえば、人口のほうはとりあえずおいておきまして、まず食料が今後どうなるかを考えるときの問題点を少し述べたいと思います。
第1は、大変な世界の食料生産に貢献した、グリーン・レボリューション(緑の革命)が、また、期待できるだろうかということです。
これはほとんど不可能ではないか。化学肥料を非常にたくさん投じることによって、もう一度生産性がどんどん上がってきたわけですが、化学肥料の投入が、もうほとんど限界にきていて、現在の化学肥料の投入量をどのように増やしても、生産がそれに伴っては増えない、これを経済学では、「収穫低減の法則」と言っていますが、化学肥料を2倍入れても、生産は2倍に増えない。1.5倍しか増えない、1倍しか増えない、そのうちには0.5倍しか増えないということになります。最後には、投入する肥料よりも、絶対的な生産性が落ちるというところまで、現在の状況は至っています。
つまり、化学肥料を投入しても、食料生産の生産性は上がらないということです。

 

 

 

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